シカの解体

動物の解体なんてきもち悪いかなと思いきや、新鮮な内臓は美しく、まったく気持ち悪くはないものです。
しかも美味しいのですから。
イタリアの大衆食堂ぽいモツのトマト煮を作ってみました。
チューブ状のはマカロニではありません^^

クリスマスの朝、隣村の青年から罠猟でシカをとったので手伝ってくれませんか、と依頼の電話がありました。
新卒で「地域おこし協力隊」に入った学校でたての若者ですが、狩猟免許をとって今年からシカなどを捕っています。
山の中の猟場につくと、シカは既にしめられていて、林の中に横たわっていました。
まだ暖かいシカの足を持って、林の中から引きづりだして軽トラの荷台に乗せて、川原へ向かいます。
30kgくらいの若いきれいなシカでした。
ナイフでお腹を開くと、大きな胃袋が目に飛び込んできます。
風船のように膨らんでいます。太鼓のように叩いてみたら、ポンポンといい音が。
シカの主食は、シカせんべい、と思ってる人もいるかもしれませんが、そうではなく、葉っぱなんですね。
葉っぱを食べて、お腹の中で発酵させます。だから、空気でポンポンなんですって。
胃袋を開いてみると、うわー!草ばっかり食べてるねキミ、という中身です。
細かくすり潰された、緑のきれいな草がぎっしり詰まっています。鮮やかな色は、こまかくミキサーをかけた、バジルソースのよう。
お腹の中は、まるでジェノベーゼ。そして野沢菜漬けのような乳酸発酵の良いにおいがします。
4つの胃をたぐっていくと、ジェノベーゼがどんどんきめ細かくなっていき、だんだん消化されていくのがわかります。
どんどん細かく。フードプロセッサーにかけられていくようなものです。
そして、腸に入っていくと、また面白いことに。
黒っぽくなっていき、そして、丸くつぶつぶになっていきます。
つぶあんの小豆のようなものが、腸管のなかにきれいに等間隔に並んでいるのです。
●●●●●…こんなかんじ。ここでも全く臭みはないです。
我々と違って、きれいなものしか食べていないのですからね。
一粒づつ作られた糞は、だんだん集まっていき、直腸では塊になっています。
山中や奈良の某観光地でよく見る、鹿のフンになってます。京鹿の子みたいな。
シカの体内工場見学、非常に面白かったです。
きれいな内臓を拝見して、自分も胃腸をいたわらないといけないなあ、と少し反省しました。
で、この胃袋や腸管を、冷たい川の中で3時間ほど黙々と洗いました。
いちおう手術用手袋をつけてましたが、全然、汚いとか思いませんでしたね。
内臓はツヤツヤで美しいし、悪臭もない。身体の精巧な作りに感心しながら、黙々と作業しました。
腸管は、水に半日浸してから、2回茹でこぼしました。
3時間、冷たい川で頑張ったのが、10分の1位くらいの体積に縮んでしまって、ちょっとザンネンな気分。
イタリアンぽいモツ煮にしました。
にんにくとクローブをオリーブオイルで炒めて香りを出してから、玉葱と人参を入れて、
トマト缶と下処理したモツをいれて、ローリエで2時間ほど煮込みます。
味付けは塩だけでしたが、とても美味しくいただきました。
今朝まで元気に生きていたシカが、こんなふうに夜には料理になっているのは、
当たり前なようで不思議な感覚です。
以前、都会に住んでいた時は、自分が将来こんな経験をするとは夢にも思ってませんでいた。
今では、普通のことになってしまいましたが、ね。
その他の臓器、胃袋や肝臓etc、そしてお肉は知人のシェフに個人的に依頼して、年末年始のごちそうになって帰ってくる予定。