タイの沈香農園の見学

2021年9月27日

タイではすごい原料に出会ってしまいました!
「沈香(じんこう)」と「カフィアライム(こぶみかん)」です。

みなさん、沈香ってご存知ですか?
香道で使われる香木の一種です。
東南アジアの特産品ですが、海を渡って正倉院にも収められているほど、
日本でも昔から珍重されてきた香りの一つです。
伽羅(きゃら)ともいいます。

(写真は工場の入り口に祭られていた沈香のご神木?のようです。)

沈香は香木として、そして漢方薬や化粧品の原料として大変高値で取引されるため(高価なものになると同じ重さの金よりも高く取り引きされるらしい!)、乱伐され、森林破壊が問題となり、天然の沈香香木はワシントン条約で保護を受けています。

沈香は原料のアガーウッドの老木に、ある種の菌が住み付くことで生産される自然の偶然の産物。
ただし、どの木にこの沈香の菌がいるか分からないため、片っ端から切り倒しちゃうそうです。

この沈香を乱伐ではなく持続可能な林業という形で生産し、精油を蒸留しているタイの会社の紹介で、沈香プランテーションと蒸留工場を見学にいくことになりました。

「コスメ調合室」がいつもお世話になっている香りの専門家、山口美帆さん御一行とバンコクの中華街で合流し、翌朝、現地の香料会社にドライバーつきの車を一台したててもらって、タイ最東端のトラート県に連れて行ってもらいました。

カンボジアと国境を接するこんな僻地にまでなかなかいけるものではありません。

私が初めてタイにいったのは、19歳のとき。
それ以来、4回ほど訪れていますが、今回ほどタイの経済発展に驚かされたことはありません。

バンコクの中心街はまるで東京の都心。
近代的な地下鉄やモノレールが走っています。
町を行く人々の服装も日本と比べて遜色ないです。

辺境の町、トラートへもバンコクから快適な高速道路(しかもすいている)があり、
山の中に車がはいっていってもどこまでいってもキレイに舗装されています。
途中で入ったサービスエリアのトイレは日本の駅のトイレよりもきれいでした!

     ***

さて、農園に着くと、なんと結婚式が終わった直後で二次会の真っ最中!
たまたま農園主のお嬢さんの結婚式だったそうで、思わぬご馳走にありつきました。

食後に早速沈香の蒸留プラントを見せてもらいました。
広くてビックリ。
120台もの赤銅の蒸留釜が整然と並ぶ光景に圧倒されました。
こんなに大規模なプラントははじめてみました。

しかも、こんな大きな工場で生産される沈香精油は月産たったの3~4kgとのこと!
その貴重さがうかがい知れます。

しかも、えらい時間がかかる作業なのです。

<沈香精油のできるまで>

沈香の木は苗から育つまで10年。
香木に変化させる菌を植えつけて待つこと2年。
伐採し、小さなチップ状にしてかめに漬け込み1週間。
(や○やの香酢みたいですね!)

蒸留がまにセットし、蒸留すること2週間。
蒸留した精油は高温の小部屋で2週間さらに熟成されます。

伐採後に、すぐに苗木を植林します。
精油がとれるまで13年。


以前は、村人たちは町の業者に安い値段で原木を買いたたかれていたそうです。
この蒸留プラントは自分たちの力で10年前に建てられたものだそうです。

ここで生産された精油はトラートの町の仲買人に買い取られ、それがまたバンコクの卸業者に買い取られ、そのほとんどが外国に輸出されるそうです。
いいかたは悪いですが、いまだに町の人に中間搾取され続けている構図は変りません。
我々は、直接現地まで見学に来た初の外国人とのことで、直接取引きが出来るかも、という期待で大いに歓迎されましたが、外国人と接するのは初めての人も多いらしく、みんなとってもシャイでした。

最後に、蒸留に使っている水の水源地を見せてもらう。
アジアの川や湖は基本的にどこでも褐色のミルクティー色の泥水。

正直あまり期待してなかったのですが、
生い茂るヤブをかき分けてたどり着いたのは
きれいに澄んだ紺碧の泉。
ちょっと感動しました。

『蒸留するときに使う泉を変えると香りが変わるから、ここの水しか使わない』
とのこと。
いろいろこだわりがあるようです。

これだけの労力をかけても、沈香精油はほんの少ししかとれません。
写真のガラス容器の中で上にうっすらと黒く浮いているのが沈香精油。
下の水が芳香蒸留水(ハーブウォーター)。

この貴重な沈香のハーブウォーターのサンプルをいただいて帰りました。
将来もしかしたら商品化するかもしれません。

ちょっと手の甲につけてみましたら、さわやかな香木の香りとともに
半日以上しっとりとした潤いが持続します。
山口さんいわく、サイプレスなどのハイドロゾルと似たような感触。

化粧品原料としての沈香の効能は日本ではあまり知られていません。
中東ではアンチエイジング効果のあるクリームの原料として、中国では漢方薬の原料として古来から珍重されてきたそうですので、現在、海外の論文をいろいろ探して研究している最中です。

沈香の香りには、落ち込んでいる心を慰めてくれるような効能があると、古くから言われてきましたが、最近の研究では脳に働きかけて幸せ感をひきだす効果に優れているとのことです。
皮膚細胞と脳が胎児のとき同じところから発生し、皮膚にも感情をつかさどる脳細胞にあるようなレセプターが備わっているとの研究もありますので、なにやら関係がありそうです。

将来楽しみな化粧品原料のタマゴです。
やっぱり現地にいかないとこういうものは見つけられないなあ、と実感しました。

これからはもっと旅に出ようと思いました。